千両役者 KAZU

遅ればせながら代表対J選抜のチャリティーマッチの観戦記を。この試合、なんとか早めに帰宅してビール飲みながらじっくり観ようと思っていたが、やはり時間的に無理でした。仕事は半ば強引に終わらせ、JR大久保駅近くにある中華日の出で観ようということになり、友人と駆けつけたのがちょうど7時を回った頃でした。

この日の出は「うまい・安い・早い・大盛り」が魅力で、さらにいうなら働き者のおじさん、おばさん、息子さんの3人のアットホームなコンビネーションがいい味を出してます。100種はゆうに超えるであろうメニューの中から、とりあえずホッピーにアジフライ、ポテトサラダ、それにニラのおひたしを注文して乾杯っ! となりました。

ところが問題はテレビ。自分らの席から少し離れた位置にある、店のつくりには不似合いな新品の32型液晶画面にはNHKのニュースが映し出されてました。内容は震災関連のもので、2、3人のお客さんはそれを真剣に観つつビールグラスを口に移し、箸を動かしています。ニュースに注視する気持ちはもちろん分かるのですが、サッカーが始まっちゃうよ〜……!

そこへ入ってきたのが1人の常連らしきおばあちゃん。テレビのすぐ前の席に座ると店のおばさんに「ねえ、サッカーに替えていい?」と言った。いや言ってくださったのです。「ああ、そうだったわね」とリモコンでポンとチェンジ。液晶画面にはこの試合への抱負を語る長谷部が大きく映り出されました。

選手入場・君が代・黙祷、そしてキックオフ。さっきまでニュースを観ていたお客さんたちも身を乗り出しています。あとから入ってきたお客さんも「お、やってるやってる」と画面に釘付け。わたしたちもモンゴウイカの唐揚げ、ザーサイ、焼きそばやらをほおばりつつ、遠藤のファンタスティックなFK、岡崎のループシュートには「こいつうまくなったなー」という声があがり、店内は沸きました。

しかし大久保の中華日の出という、パブリックビューイングとしてはあまりにも狭い空間が最高に盛り上がった瞬間はやはりカズのゴールでした。ライトな(?)サッカーファンのおばあちゃんあたりにしてみれば、カズの知名度は長友の比じゃありません。両手を挙げて拍手して「やっぱりカズさんは上手よね〜」なんて同意を求められたら、周りのお客さんは首を横に振ることはできませんって(笑)。

今回の試合は特別な一戦。被災地でもたくさんの人々が注目していたでしょうし、テレビのない避難所で観たくても観られなかった方もいたと思います。試合が終わると再び厳しい現実に戻ってしまうわけですが、この2時間ちょっとのチャリティーマッチが被災者にいくらかの元気と活力を与えてくれたならいいのですが。

小笠原も今ちゃんも故郷である東北の大惨事の悲しみをかなぐり捨て、復興に向けて全力でプレーしていました。被災地以外に生活する我々も、次から次へと流れてくる悲惨なニュースに打ちのめされないだけの強い気持ちを持ち続けていかねば。つらいのは自分だけじゃないのだから。