突然ですが、オシムのこと

ついさきほど午前0時すぎ、NHKテのニュースが終わってさあテレビ消すかと思ったら、「スポーツ大陸 オシムの改革〜ジェフ千葉・初優勝への軌跡〜」というのが始まり、最後まで観てグッ、ググググッと感動してしまいました。

内容はご存じイビチャ・オシムの人間ドキュメント。どうやら昨年10月にBSで放映されたものの再放送。「それ観たよ」という方もいらっしゃるでしょう。僕はオシムファンなのですが、不覚にもこいつは見逃していました。

今はなき連邦国家ユーゴスラビアの名選手であり代表の名指揮官だったオシムが内戦勃発により祖国を離れ、レアルマドリードなどビッグクラブからのオファーがあったにもかかわらず断り、日本のJリーグで、しかもタイトルから縁遠い弱小クラブ・ジェフ市原(当時)の監督に就任し、ナビスコ杯で優勝するまでに変身させるプロセスを追う―といった内容。

大体想像がつくでしょうが、途中では佐藤(勇)・阿部・羽生・巻といった「オシムチルドレン」などと呼ばれる面々のコメントを織り交ぜながら構成されていました。そこでまた例によって含蓄のあるオシムの言葉の数々が散りばめられているという流れです。

日本にきて、千葉のサッカーに触れてまず感じたこと。「日本人は負けたときの言い訳を先に考えてから行動する。そうじゃなく、先に動くんだ。失敗を恐れずに動く、走ることから勝利への道が始まる」というような言葉があり、そのあとに続くのが有名な「ただ走るだけじゃいけない。考えて走ることだ」につながるわけですね。

これはオシムのもとでコーチだった江尻現千葉監督に話した言葉ですが、「我々は選手のことをいいとかよくないと評価し、試合に出す出さないを一方的に決めるわけだが、その選手を支えてきた家族やさまざまな人たちがいることを常に考えていなければいけない」というのがあったそうです。なんとも意味深く、慈愛に満ちたセリフです。

のちに千葉のみならず代表のFWに成長した巻が駆け出しの頃、決定的なゴールを外し、試合直後のロッカールームでは「何やってんだ、もうやめちまえ!」と罵倒した夜、宿泊先のホテルで自室に巻を呼んでこう話したそうです。「今日失敗したことで、お前はこれから選手としてFWとして成功するチャンスを何倍も早くつかむことになった」。

そして2005年ナビスコ杯決勝、対ガンバ戦。PK戦の末、ジェフは初タイトルを獲得した後でオシムは「ついに偉業を達成しましたが」との質問に対し、こう答えています。「偉業というのは達成して喜んでいるだけではいけない。それをつぎも続けていこうとしていかなければ何の意味もないことだ」。勝利へのあくなき探求心というべきでしょうか。

過去の映像と重ねてそれらの言葉が目を通して頭のなかを通過していくと、オシムの単にサッカー人という枠だけに収まりきらない豊かな人間性に感銘し、尊敬せざるを得ません。

すでにご存じの方も多いかと思いますが、オシム語録を集めたサイトもいくつかあるので、何かの折りに目を通してみてください。豊富な人生経験に基づくウィットに富み、かつユーモアやシニカルさも含まれた発言の数々は実におもしろかったり考えさせられたりし、さらに勇気が沸いてくるというおまけ付きです。

偶然目にした番組でしたが、リーグ戦開幕を目前にして何だかいいビタミンを体内に注がれた気がしました。