カタールのカボレ

毎朝、起床の6時40分から7時20分までは疾風怒濤の40分間だ。いやそんなカッコイイもんじゃない、ドタバタヘロヘロな時間となる。

いいトシをして、相変わらず朝起きが苦手である。ギリギリまで寝て、それから呆然とした精神状態のまま一連の流れをすませて家を出る、というのがお決まりのパターンだ。

休日、釣りや山歩きに出るときは目覚ましがなる前にパチッと目が覚める。だが平日は5分おきに鳴る設定の、3度目の目覚まし音でようやく起きる決意を固めるネボスケぶりだ。

今朝(金曜朝)もそんな調子で朝食を掻き込むように食べ終え、家を出る7時20分すぎとなったので重い腰を持ち上げた。するとその瞬間、NHKのニュース画面が変わった。

始まったのは朝のニュースにしては珍しいサッカーの話題。「オイルマネーの脅威 カタールのサッカー事情」というようなタイトルがついた小特集だ。浮かした腰をもう一度イスに下ろしてしまった。

内容はだいたい予測がついた。要は最近のカタールでは国を挙げてサッカーの振興に力を入れ、潤沢なオイルマネーで世界のあちこちから好選手を集めまくる、といった事情の紹介なのだろう。

ちょっと観ていると、やはりそんな感じだった。W杯出場の夢を実現させるため、アフリカの有能なサッカー少年を“青田買い”したり、他国の選手を帰化させて代表メンバー入りさせたりと、言い方は何だがとにかく金・金・金で買い漁っている。

カタールのサッカー関係者はまた、Jリーグに所属の外国人選手にも大いに注目している。「Jリーグで通用している選手なら、カタールリーグでも活躍間違いなし」という考え方が定着しているのだそうだ。

この辺りの話はニュースを観るまでもなく、Jリーグファンならばよく知った事実。名古屋のダヴィ、ガンバのレアンドロ、そしてわれらが東京のカボレまでもが今シーズン途中で日本を去り、カタールへと旅立ってしまった。

そのカボレがいきなり画面に登場してきた。オオッ! なんとひさしぶり(そうでもないか)。見た目は東京在籍時と何も変わらず(当たり前?)、顔色はなかなかよろしい。ゴールも順調に決めているという。

インタビューでカボレは2人の子どもを抱きながら、「ここでは十分なまでの報酬を得ている」と満足そうな表情で話した。高級な造りの家のガレージにはピカピカのBMWがとまっていた。

これを観るうち少し寂しい想いが湧いてきた。ついこの前まで青赤ユニで走っていた東京のカボレはもういない。すっかりカタールリーグの一選手に変わっている。センチメンタルな気分にさせられる一瞬だった。

しかしまあ、現実的には仕方のないことなのだ。ナビスコ決勝進出を決めた清水戦の試合後にロッカールームでチームメイトに涙ながらに退団の決意を告げたのも事実なら、カタールで豪華なソファに背を傾けて生活の変化を語るのもまた事実である。

別れのロッカールームでは「このチームなら、きっとできる」とナビスコ杯の優勝を確約したという。11月3日、実際にカップを奪い取ったなら、カボレにもいち早く伝えてもらいたい。ふだんの真面目な表情が「東京優勝」の知らせを耳にし、ニッコリと笑顔に変わる瞬間を目の当たりにしたいものだ。

この小特集に見入るうち、気がつけば7時半を回っていた。いつもより出発が10分も遅れてしまった。朝の10分はデカい。

満員電車の中で思い浮かべるのは再びカボレのこと。本心は今でも東京でプレーしたいんじゃないかな。違うかな……と、また考えてしまった。今さらいくら考えても仕方ないのに、我ながら未練がましいよなぁ。