等々力初勝利を期待――

台風が来ている。すでに東海地方で大雨を降らせ、午前1時過ぎのこの時間には静岡県遠州灘沖を通過中とのことだ。たしかに国立市内の我が家付近も強めの雨が降り続いている。

明日の試合は“多摩川クラシコ”と呼ばれるようになって2年目、4試合目を迎える東京vs川崎戦。昨年の等々力もやはり結構ひどい雨の日だった。で、結果は2-5で完敗。足元は冷たく、気分も冷えきってしまったので、帰りがてらいつもの観戦仲間Wと新丸子駅近くの居酒屋で一杯やった。

地味ながらもなかなかつまみが揃っていて、いい店だ。あまり広くない店内には、すでにフロンタのユニを着たグループが1組。といっても造りがシブイ(ボロい?)ので若者系ではなく、中年ばかり4人(うち1人女性)のサポだった。すでに勝利の乾杯をすませ、にこやかに試合を振り返っている最中。

青赤のレプリカユニフォームをはじめ、東京グッズはすべてバッグの中に押し込んでしまった我々は、口数も少なくフロンタのワハハ話に耳を傾けていた。当然ながら愉快なわけはなく、彼らの笑い声はボディブローのごとく胃に胸に突き刺さり、精神的ダメージが増しつつあった。ハァ〜、もうダウン寸前。なんて悲しい酒なのだ。トホホ。

そんなとき店の引き戸が開いて、1人の客が。見れば青赤ユニを着ているではないか。年の頃は40歳前後、メガネをかけ、ちょいオタクっぽいタイプだ。カウンターに座るや「ホッピー」と注文。ハイペースで飲み始めた。フロンタ中年組はチラ目でこの青赤サポのメガネ君を見たが、すぐに元の会話に戻っていった。

15分ほどたっただろうか。メガネ君は突如としてフロンタグループの会話に割って入った。
「いや〜っ、よかったっすね〜〜。ホンット強い。強いっすよ、お見事っす! こりゃあカワサキさんは優勝っすね〜」
「いやいや、どうもどうも。エフシーもよく攻めてましたよ、お互いにいい試合でしたな、アッハッハ、ウワ〜ハッハッ……」

これを皮切りにメガネ君の猛口撃が始まり、はたで聞いていても息苦しくなってしまった。川崎をしつこいぐらいに賞賛し、さらには自虐的な東京批判まで展開し始める始末。いよいよその場にいることが耐えられなくなり、Wと目で合図を交わして店を出た。

外は相変わらずの強い雨武蔵小杉駅でWと別れて南武線に乗り、西国立駅で下りてチャリンコに乗る。片手で傘を差したまま、車道から歩道への10㎝ほどの段差を乗り上げようとした矢先、ハンドルを取られてしまいバッターン、とコケてしまった。

情けない。ひざの辺りをドロで汚し、ひじには結構のすり傷を負った。まいった。これもアウェイの洗礼なのか……などと思いつつ、ほうほうの体で帰宅した次第。踏んだり蹴ったりの1日だった。

あれから1年だが、台風13号襲来でまた雨の等々力になるのか。それとも台風一過で雨上がり、東京に等々力での初勝利をもたらすのか。ぜひぜひ「川崎優勢」の下馬評をくつがえしてもらいたい。

そのときは再び新丸子の居酒屋に行き、Wと一杯やって帰るつもり。もちろんユニは脱ぎ、静かに勝ち試合を振り返って美酒に酔いしれたいものだ。メガネ君がこないことを祈りつつ……。