アルビサポKからのメール

かつていた会社の後輩だったKは自分より2歳下だ。入社時の歓迎会でさんざん飲み、初対面にもかかわらず僕はKのアパートに泊まり込んだのをきっかけに、以来20年近くにわたり飲んではあれやこれや話す仲である。

Kは新潟の出身なのでサッカーはアルビレックスを応援している。
「でもね、近所の商店街(Kは練馬在住)はエフシーの旗だらけじゃない? だからいつの間にか感化されちゃってさあ。ホント、頑張ってほしいと思ってるよ、エフシーにもね」
こっちが毎度毎度「エフシーじゃなくて、東京と呼ぶように!」と言うものだから、かえって面白がって「エフシー」を連呼する。それに対して僕は、「うるさいよ、新潟のアヒルさん」と答えるやり取りが決まりごとになっている。

何年か前、味スタでKといっしょに東京−新潟戦を観戦したことがある。普段は主にゴール裏の僕だが、その時は中立性を高めるためにバクスタ2階席のアウェイゴール裏寄りに並んで座った。とはいえそこはホーム側のエリアであることに変わりはない。Kはオレンジのユニを家に置いてきた。僕も何だか気がねして、その日はユニを着ずにタオルマフラーを首からさげるだけにした。

試合が始まった。なかなか点が入らない展開で、最初にゴールが決まったのは新潟だった。
「ウォ……」
Kは歓喜の雄叫びを上げかけたが声を途中で止め、両手でガッツポーズするだけの喜び方にとどめた。試合はそのまま新潟が勝利。すると頭をかきながら口を開き、耳元でこうつぶやいた。
「あー、やばかった。もう少しで大声上げてしまうところだったよ」
試合後に行った府中の居酒屋でKの舌は快調そのもの。敗者側の僕は、聞き役に回るのみだった。

それ以来、Kとはサッカーを見に行ってはいない。理由はただ単にスケジュールが合わなかっただけのこと。もちろん別に、いっしょに行ったときに東京が負けたことなんぞ、根に持っているわけじゃあない。

昨夜、そのKから携帯にメールが届いた。
《11月最後の週に味スタでエフシーとアルビがやるみたいだけど、久しぶりにぜひ行きたいね。前に行った2階あたりのチケット取れるかな。》と書かれている。これに対し僕は、《大丈夫、楽勝に取れる。今度はもっとアヒルさんのゴール裏に寄った方に座ってもいいよ。》と返事を送っておいた。

Kは8月末以来、故郷の新潟で大腸がんのため入院中だ。昨年夏に一度都内の病院で手術したのだが、再び発症して手術を受けたばかり。だから連絡方法は主に携帯メールだけが頼りとなる。
11月30日の今季味スタでのホーム最終戦・東京対新潟には、ぜひKと並んで観戦したいものだ。それまでには、なんとか退院してほしい。いや、サッカー観戦なんてことよりもまず、なんとか病気を克服してくれることを願うばかりである。